のれんは「非償却」へ向かうのか
- yasuda-cpa-office
- 59 分前
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おはようございます!代表の安田です。
企業会計基準委員会(ASBJ)は2026年1月20日、第7回「のれんの非償却の導入及びのれん償却費計上区分の変更」に関する公聴会を実施しました。公聴会は、のれんの非償却導入等により会計基準として改善が見込まれるかについて関係者の意見を聴取し、企業会計基準諮問会議に報告することを目的としています。
本日は、公認会計士の視点から、当該公聴会で示された考え方を踏まえ、「のれん非償却」論点の現在地と、企業実務での影響・準備ポイントを整理します。
1. 何が議論されているのか:のれん「非償却」+「償却費の表示区分」
日本基準では、のれんは原則として一定期間で規則的に償却します。一方、IFRSでは原則として非償却(減損テスト)という考え方が採用されており、国際的な整合性や企業価値の表現のあり方を背景に、日本でも見直し議論が続いています。
今回の公聴会テーマは大きく2つです。
のれん非償却の導入(減損中心のモデルへの転換の可否)
のれん償却費の計上区分の変更(販管費のままか、別掲か、あるいはKPI表示か)
2. 公聴会での意見:IFRS任意適用企業の実務者は「非償却を支持しない」
今回の公聴会では、IFRS任意適用企業である日本製鉄の実務担当者から意見が示されました。要旨として、次の点が強調されています。
<2-1. 「会計基準は実態を反映すべき。政策目的での改正は慎重に」>
会計基準は企業経営の実態を適切に反映すべきであり、政策的手段・誘導目的のために理論的背景なく改正すべきではない、という姿勢が示されました。
また、国際整合性の観点も理解しつつ、盲目的に国際基準へ合わせるのではなく、日本としてあるべき会計の姿を具現化し、国際的な意見発信を続けることが重要との考えも述べられています。
<2-2. のれん非償却は「支持しない」:時間の経過で減耗するという捉え方>
のれん非償却の導入については明確に「支持しない」との立場が示されました。理由は、のれんは時間の経過とともに減耗していくものと捉えており、価値維持には継続的なリソース投入が必要であるため、償却しないことは結果として「自己創設のれん」を計上し続けることに等しい、という点です。
<2-3. 国際整合性を理由にするなら「周辺基準も整備が必要」>
IFRSとの整合性を理由に非償却へ寄せるのであれば、PPA(取得原価配分)や有形固定資産などの周辺基準も合わせて整備しないと、国際的スタンダードに則った改善とは言えない、という指摘もありました。
3. 「償却費の見せ方」は別論点:KPI表示の工夫には一定の理解
一方で、のれんの償却費を販管費に計上し続けつつ、償却前営業利益やのれん償却費を表示するという考え方については、「会計処理自体は変わらない」ため、仮にスタートアップ支援につながるのであれば反対する必要はない、という趣旨の見解も示されています。
この点は実務的に重要です。すなわち、会計処理(認識・測定)を大きく変えずに、情報の提供方法(表示・開示)を工夫することで、投資家や経営者が意思決定に使いやすい形を目指す、というアプローチです。
4. 実務への影響:非償却に動く場合、企業側の負荷は「減損テスト」に集約
仮に日本基準で非償却モデルが採用される場合、企業実務では次の負荷が増大し得ます。
のれんを含むCGU等の単位設定
将来キャッシュ・フロー見積り(事業計画の合理性)
割引率、成長率、シナジーの裏付け
減損兆候のモニタリング頻度
監査対応(見積り不確実性・経営者バイアスの統制)
これらは、特にM&Aが活発な企業ほど、決算プロセスの中核論点になりやすい領域です。また、のれんが償却されない場合、損益が短期的に押し上がる一方、減損が発生すると一括で大きな損失が計上され得るため、利益変動のパターンも変わります。
5. 企業が今からできる準備(日本基準のままでも有効)
議論が継続中である現時点でも、次の整備は「いずれの結論でも有効」です。
(1)M&A後のモニタリング体制の明確化
取得時の投資仮説(シナジー、KPI)
その達成状況のモニタリング(経営会議資料の整備)
兆候の早期検知(部門別採算、主要KPI)
(2)PPA・無形資産の整理とドキュメンテーション
国際整合性が論点となる以上、PPAの精度、識別可能無形資産の切り分け、耐用年数の合理性などは、今後も重要性が高いテーマです。
(3)KPI表示(償却前利益等)の社内外コミュニケーション
「償却前営業利益」等の補助指標を使う場合、
定義の明確化
継続適用
利用者誤認の回避(調整項目の説明)
が不可欠です。会計処理を変えずに情報価値を高める方向性として、検討価値があります。
まとめ:のれん議論は「国際整合性」だけでなく「実態反映と説明可能性」が焦点
ASBJの公聴会では、IFRS任意適用企業の実務者から、のれん非償却を支持しない立場と、その理論的背景(のれんの減耗、自己創設のれん問題、周辺基準整備の必要性)が明確に示されました。
今後、ASBJおよび企業会計基準諮問会議で議論が深化していく中で、企業側としては「制度がどう決まるか」だけでなく、
のれんの経済実態をどう説明するか
M&Aの成果をどうモニタリングし開示するか
監査に耐える見積りプロセスをどう構築するか
という観点で、早めに体制整備を進めることが重要です。
当事務所では、M&A後の会計・開示対応のご相談も承っております。
必要に応じてご相談ください。


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